すがすがしい無意味な明るさ 読売新聞夕刊 2006年7月29日
読売新聞 編集局文化部 前田恭二
14個の電球が光っている。計1000ワット。ただし時々ちらちらする。理由はコードの先の、奇妙なきかいのせいだ。ループ状に回転するチェーンに引きずられる形で、鉄の棒が長い鉄板の上を行き来し、青い火花を放っている。そのが一種のスイッチになっていて、放電の瞬間、光が弱まる仕掛けになっている。
なぜこんな機械を、と問うても答えは見つからない。電球は無意味に明るい。作者はこれまでワニの像が回転したり、クマの像が繰り返し、レールを後ろ向きに滑走する作品を発表してきた。意味を振り切るような回転や、どこにも行かない単純な反復運動への、やみがたい偏愛がその作品には宿っている。
怒り出す人がいてもおかしくない。だが意味や感情なるものを疎ましく思ったことのある人に、その徹底した無意味さはすがすがしく映るに違いない。