INTER COMMUNICATION/提髪明男
『書道界』2001年9月号
雪山
<抜粋>つくば大学出身で現代美術を手掛けている作家はそう多くはないという。そんな中で知られているのが明和電機、グラインダーマンなど。共に機械系を得意とし、意味があるような無いような作品であること。六月二十五日から七月二十二日まで、下高井戸のgallery ART SOKOで個展を開いていたタムラサトルもつくば大学出身だ。やはり機械系で、これまでには疾走する熊や、急速回転するワニなどを制作している。今回の展覧会のタイトルは「電動雪山ダブルマウンテン」。
冷房のあまり効いていないだだっ広い会場。中央に張りぼての雪山が置かれている。その稜線に沿って、レールのようなものが敷かれ、その上をやはり張りぼての小さめの雪山が動いている。裾野から頂上へ、頂上から裾野へ、ゆっくりと、ひたすらそれを繰り返す。ただそれだけの作品。現代美術に意味を求める観客ならば腹を立てかねない作品だ。この蒸し暑い中、何でこんなものをじっと眺めていなければならないのか。でもわたし的には気に入った、このバカバカしさが。
発砲スチロールを素材とした張りぼての雪山は、だがチープな絵はがきに用いられる空撮の雪山のように、妙にリアルな質感を持っている。そこで意味を求める脳をなだめ、思考をゆるゆるに溶かしてから眺めてみる。実際にこんな光景があったら面白いだろうなぁ、そんな気分にもなる。親亀の上の子亀ではないけれど、親雪山の上で子雪山がまったりと登ったり降りたりしている。なんて平和な光景なんだろう…。
純粋意味のコンセプチュアル・アートにまで至った現代美術。思惟のために硬直した眉根をほぐすのもまた、タムラのような現代美術の作品でもある。
(文/提髪明男)